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  • 三木孝則

ITは経理の仕事を奪うか

更新日:2021年3月13日


ビズサプリの三木です。近年のIT技術の発達は目覚ましく、「ホワイトカラーの仕事は無くなる」「特に会計士の仕事は無くなる」などともいわれています。今回のメールマガジンでは、本当にIT技術がホワイトカラー、特に経理部門の仕事を奪うかどうかを考えてみます。 ■ 1.近年話題のIT技術 様々なIT技術が話題となっていますが、特にホワイトカラーに影響が大きそうなものにAIとRPAがあります。 AIは人工知能(Artificial Intelligence)のことです。近年特にAIが注目されているのは、ディープラーニングという学習方法によってAIの能力が飛躍的に高まったためです。


ディープラーニングでは、人間の神経回路を模したようなコンピュータの回路を使い、コンピュータ自らが様々なデータにアクセスして試行錯誤することで複層的にデータ同士の関連性を見出し、判断力や分析力を磨いていきます。


人間が教えるわけではないのが特徴で、データさえ与えれば勝手に賢くなっていきます。この技術のおかげで、将棋や囲碁のソフトはプロ棋士でも思いつかない手を打つようになってきました。 RPAはRobotic Process Automationの略で、ロボットを使って業務を自動化していくことです。ロボットといっても工場の製造ラインにあるようなものではなく、コンピュータの中にあるプログラムです。Excelに慣れている方ならマクロが更に発達したようなイメージを持っていただくと近いかもしれません。


ただしマクロとは違い、様々なシステムにアクセスして操作をすることができます。例えば、RPAが会社の基幹システムにアクセスして期日を過ぎても入金がない債権をリストアップし、それぞれの担当者に未入金を知らせるメールを送り、その回答を一覧表にまとめる、といったことが可能です。


こうした作業をコンピュータが行うこと自体は目新しくはなく、システムの中に未入金お知らせ機能を作り込んでおけば以前から可能ではありましたが、RPAではシステムの外側で気軽・安価に追加機能を付け足せる点がメリットとなっています。 現状では、経理の実務に耐えうるAIの開発にはまだ時間がかかる印象です。比較的単純な判断業務であればともかく、経理業務全体となると、税務、資金繰り、対外的な決算発表、不正の防止など考慮要素が案外多く、まだまだ人間の判断力や方向づけには追い付けていないと感じます。


むしろ経理業務と相性が良いのがRPAです。多額の資金を投じてシステム開発するほどではないため人が毎月やっている単純作業などは案外あるもので、RPAで代替できる業務は少なくなさそうです。 ■ 2.機械が仕事を奪う 発展するIT技術が特にホワイトカラーの仕事を奪っていくと言われるようになった背景に、2015年12月に野村総研がオックスフォード大学との共同研究として発表した推計があります。


簡単に言えば、特別な知識・スキルが不要な職業や、データの分析や操作の多い職業はAIやロボットで代替され、創造性や協調性が重要だったり、人間同士の理解や交渉が必要な職業は代替されにくいというものです。結果として、10~20年後に国内労働人口の49%の職業について、AIやロボットで代替される可能性が高いという推計がなされています。


経理などの事務職は無くなっていく職業の代表格で、逆にソムリエやデザイナーなどは代替されにくい職業です。 「アナタの仕事は無くなるよ」と言われれば不愉快でもあり、私のいる会計士業界でも「会計士の仕事は無くならない!」主張しています。


一方で、機械化で人間の仕事がなくなっていく流れは産業革命以来ずっと続いており、職業の栄枯盛衰は必然とも言えます。もちろん悪いことばかりではなく、機械による大量生産が無ければ現代の便利な生活はあり得ませんし、奴隷問題や労働災害を抑制するうえで機械が果たした効果は計り知れません。 私が社会人として仕事を始めたのは約20年前ですが、そのころは携帯電話が出始めで、もちろんスマホは無く、ようやくノートPCが持ち運べるようになってきた頃でした。


メールはあっても大きなファイルは送信できず、データの入ったフロッピーディスクを現場に持っていく「おつかい」は新人の仕事でした。皆さんご存知の通り、この辺りの仕事スタイルは様変わりしましたし、実際に私が仕事で伺う会社にも20年前にはなかったビジネスが多いことを思えば、49%の職業がIT技術にとって代わられるというのは、あながち外れていない気がします。

■ 3.「無くなる」ではなく「変わる」 では経理や人事などのホワイトカラーの仕事が無くなるかというと、そうでもない気がしています。機械によって経理の仕事がなくなるなら、電卓が出てきたときやExcelの普及によって、もっと経理部門はダウンサイズしていたはずです。ところがExcelがいかに普及しても経理の仕事はいっこうに楽になっていません。 ただし、大変さの中身は変わっています。足し算や引き算、集計に苦労するというケースは昔に比べて格段に減り、「何を集計すれば良いか」「どう集計すればよいか」という上流工程や、その結果をどうプレゼンするかという下流工程に比重が移っています。


また、単純な集計ではなく他のデータとの相関関係を示したり、作業の締め切りが早くなるなど、違う付加価値を求められるようになっています。機械化で楽になる一方で要求水準も上がり、トータルでの大変さは変わっていないのが実情ではないでしょうか。 現在のホワイトカラーの仕事も徐々にRPAやAIで代替されていくのは必然です。しかしながら、人事であれば採用や人事評価を通じてどういう組織を作っていくか、経理であれば自社の業績をどのように表現するかといった部分は非常に高度な判断ですし、単なる判断ではなく経営的な意思も入りますので、機械化にはまだまだ時間がかかります。むしろRPAやAIをうまく使い、他社に先駆けて行動できるよう、こうした意思決定に役立つ情報を従来より速く正確に出すことが重要になります。そうなれば、管理職はより判断業務に、スタッフはRPAやAIなどの技術を使いこなせることが評価されるようになります。 このように、ホワイトカラーの仕事自体が無くなるのではなく、求められるスキルや業務比重が変わるのが妥当な見方ではないかと思います。もちろん、「経理が無くならない」だけであって、「いま経理でやっている業務が無くならない」とは限らないため、今まで以上にIT技術にアンテナを立てておく必要はあるでしょう。


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