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上場準備会社は監査役会か監査等委員会か

 

会社法上は、大会社(大会社は資本金5億以上または負債総額200億円以上)でかつ公開会社(株式の譲渡制限がない会社)には、監査役会の設置が義務付けられます。

しかし、上場準備会社は、そもそも資本金が5億円になっていない会社もあり、また減資して5億円未満になっていることもあります。当然ながら公開会社でもありません。このような会社には、監査役会の設置義務はありません。

上場会社は、監査役会、監査等委員会または指名委員会等を設置しなければなりません(東証上場規程 第437条)。上場準備会社は、上場会社並みの運営が必要となるため、会社法上の監査役会等の設置が必要でない会社であっても、「任意」で監査役会等を設置することが必要になります。

指名委員会等設置会社は、最も透明性の高いガバナンス体制ですが、東証1部に直接上場するような大企業を除いて採用されることはありません。このため、上場準備会社は、監査役会かまたは監査等委員会のどちらかを選択することになります。

監査等委員会は、2015年から導入された制度です。制度導入後に急速にこの体制を採用する会社が増加し、現状では上場会社の3割弱の約1000社がこの制度を採用しています。一方、新規上場会社ではこれを採用する会社は、2割程度に留まっています。

2020年(1月から12月)では93社の新規上場がありました(市場の指定替えを除く)。ビズサプリグループの調査によると、このうち監査役会設置会社が74社であり、監査等委員会設置会社は19社(20%)でした。新規上場会社では監査役会設置会社が多いようです。次の観点からこの監査役会と監査等委員会の違いを検討してみましょう。

 

  • 人数はどちらも常勤1名、社外2名

  • 監査役と取締役の違い

  • ガバナンス体制で選ぶのなら監査等委員会

  • 「大会社」でなければ監査役会

 

①人数はどちらも常勤1名、社外2名

 

新規上場会社の9割以上が、監査役会等を3名構成としています。監査役会は半数以上を社外としなければならず、監査等委員会は過半数が社外と定められています。しかし、3名構成を前提とすると、1名が常勤、2名が社外(非常勤)となり、監査役会と監査等委員会に人数上の違いはありません。

会社法上、監査役会には常勤監査役が必要ですが、監査等委員会には常勤が求められていません。しかし、常勤監査等委員がいないと、結果として監査役会設置会社よりガバナンス体制としては弱くなってしまいます。

これを避けるためには、監査等委員の1名を常勤化することが必要です。ビズサプリグループの調査によれば、前述のとおり2020年の新規上場会社93社中、監査等委員会設置会社19社(20%)のすべての会社で常勤の監査等委員が選任されていました。

これは、主幹事証券会社が、監査等委員会設置会社を採用する場合は、監査等委員の1名を常勤にするように求めているからと考えられます。ちなみに、上場会社のなかで、常勤の監査等委員を置いていない会社は16.3%(東証コーポレートガバナンス白書2019)です。

 

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②監査役と取締役の違い

 

監査役会のメンバーは言うまでもなく監査役です。監査役には取締役会での議決権はありません。一方、監査等委員会は取締役会の中に設置する委員会であり、そのメンバーは取締役です。監査等委員は取締役として議決権を行使できます。

監査役会等2.png

③ガバナンス体制で選ぶのなら監査等委員会

 

監査等委員会は取締役会の中に設置され、その委員は取締役です。取締役でありながら監査役のように監査を行うとともに、取締役会で議決権を行使するのが監査等委員です。一方、監査役には取締役会への出席義務はありますが、取締役のような議決権はありません。

議決権があることから、監査役会に比べ監査等委員会のほうが、欧米のガバナンス体制に近い形態となり、良いガバナンス体制であるとされています。このため、ガバナンス体制を重視する観点からは、監査等委員会設置会社を選択するのが良いと言えます。

④「大会社」でなければ監査役会

 

監査役会設置会社は、大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)の場合に会計監査人を選任して、会社法監査を受けることが必要です。大会社になっていないのであれば、会社法監査を受ける必要がありません。

監査等委員会を設置すると、会社の規模に関わらず会計監査人を選任して会社法監査を受けることが必要になります。

上場準備に入ったら監査法人を選任する必要があるので、監査法人による会計監査をいずれにしても受ける必要があります。これは「金融商品取引法(金商法)に準ずる監査」と呼ばれる監査です。これに会社法監査を追加で受けると、監査報酬(監査法人に支払う監査料)が多めにかかります。これを避けるためには、大会社でない場合には監査役会設置会社にしておいた方が良いでしょう。

ただし、事業報告や計算書類(会社法上の決算書)について監査法人による監査を受けておくことは上場後にも役立つことですので、会社法監査を早めに受けておくことは望ましいと言えます。これにより監査法人への監査報酬が2倍になるわけではなく、1~2割増し程度と考えてよいでしょう。

ちなみに、前述のとおり、上場会社全体でみるとその約3割が監査等委員会設置会社となっていますが、上場準備会社ではそれより低い約2割が監査等委員会設置会社になっています。上場準備会社に監査役会設置会社が多いのは、上場準備期間中の会社法監査を避けるためと考えられます。

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